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2009.05.21 (木)

「 弱毒性でも侮ってはいけない 」

『週刊新潮』 2009年5月21日号
日本ルネッサンス 第362回

5月9日、ブタ由来の新型インフルエンザウイルスへの国内初の感染が確認された。11日現在、研修旅行先のカナダから帰国した大阪の高校の男子生徒3人と引率の男性教諭の計4人の感染が確認されている。

日本へのウイルス上陸について、高橋央(ひろし)氏は「予想どおり」と語る。

氏は、かつてCDC(米国疾病予防センター)に在籍した感染症対策の専門家である。03年のSARS発生当時、JICA(国際協力機構)に所属、WHO(世界保健機関)にコンサルタントとして派遣され、フィリピンでのSARS封じ込めのチーム・リーダーを務めた。

フィリピンでは、トロントから帰国した介護要員の女性がSARSを発症、彼女と父親は死亡したが、それ以上の被害をくい止めた。医療も衛生観念も不十分なフィリピンでの封じ込めを指揮したことで、未知のウイルスとの闘い方について多くを学んだと氏は語る。その後、氏は、当時の長野県知事、田中康夫氏に請われて長野県須坂病院で感染症対策の拠点作りを任された。今年3月末に退職、現在は東京都の感染症医療対策を助言する立場だ。

「4月26日に、メキシコを旅行した米国人高校生の感染が確認され、高校は非常事態と見做して休校に踏み切りました。日本への上陸は、その時点から1~2週間、連休の終わり頃と見ていましたが、そのとおりになりました」

高橋氏は、小説に譬えれば、現状は最初の5頁目ぐらいまで進んだところと言う。未知だった主人公がようやく姿を現わした段階だというのだ。問題は、これからこの敵とどう闘っていくかである。

一週間単位での局面変化

これまでの対策を見れば、成田に戻った機内での短時間の簡易検査で、2人の発症者を特定したことは評価すべき実績で、「検疫所の職員と自衛隊はよくやっている」と、高橋氏は語る。

「迅速診断キットが行き渡っているのが、ひとつの要因でしょう。これら医療キットと約4,000万人分のタミフルの備蓄があるのは、日本と米国くらいだと思います。

しかしウイルスは、非常に手強い存在です。われわれは強毒性のトリインフルエンザウイルスを想定していたのですが、出現したのはブタ由来のH1N1型、毒性は想定より弱いことが分かりました。世の中は、なんとなく安心しているようですが、弱毒性でも死者が出ていることを忘れてはなりません」

5月11日現在で、確認されている世界の感染者は、約4,700人、死者は53人に上る。ざっと計算すれば、死亡率は1%を超える。氏は、しかし、別の計算をする。

「確認済みの感染者が5,000人だと仮定して、実際の患者数はもっと多いはずです。東南アジアやアフリカ諸国などにも感染者はすでに存在すると考えるべきで、軽症者は病院に行かずに治ってしまう。そうした事例も考慮して、患者数はもう一桁多いとの前提で、死亡率は0.1%とみるのが妥当です」

これは通常のインフルエンザの死亡率とほぼ同じだが、人類にはこのウイルスへの免疫がない。犠牲者はこれからも確実に増えていく。警戒を緩めてはならないと、氏が警告するゆえんである。

これから先、考えられる状況展開について、局面は一週間単位で変化するだろうと氏は語る。

「次の段階で、私たちは、大阪の高校生の一群ではなく、検疫をすり抜けた別の人々のなかから感染発症者を見ることになるでしょう」

その段階では、国内発症患者の感染源を突きとめられるか否かが問題なのだ。たとえば、海外旅行から戻った人の発症ならば、これらの人々と、彼らに接触した人々の一時的な隔離や停留でさらなる拡大を防ぐことが出来る。だが、どこで感染したかがわからないケース、市中感染も必ず、起きてくる。

私たちにはまだ免疫がないために、対処を誤れば市中感染は確実かつ急速に広がる。事実、専門家らは、無闇に恐怖心を煽りたくないとして、公には明言しないが、WHOはすでに世界の現状は、世界的大流行(パンデミック)の段階にあると見ているというのだ。国全体での流行と大陸を超えての流行が見られるというのが理由である。にもかかわらず、WHOは、警戒度を最高の6に上げていない。上げた場合、経済への打撃の深刻さが懸念される一方で、ウイルスの毒性が想定より低いことが理由だと見られている。

そしていま最も恐れられているのが、ウイルスの変異である。

「現在、タミフルは新型インフルエンザウイルスのH1N1には有効ですが、ウイルスはタミフルに対する耐性をつけつつあります。現に、このウイルスと似た遺伝子をもつAソ連型インフルエンザウイルスは、あっという間にタミフルへの耐性を身につけました。したがって秋までに新型インフルエンザにタミフルが効かなくなる可能性もあるのです」

あまりにも凄い交雑

新しいワクチンの開発には、少なくとも半年は必要だ。高橋氏ら専門家が懸念するのは、その間にウイルスがまたもや変化する可能性だ。

「この新型インフルエンザウイルスの遺伝子は、驚くことに人間とトリとブタの遺伝子が交雑して生れたものだったのです。しかも、ブタの遺伝子はアメリカ大陸由来のブタの遺伝子と、ユーラシア大陸由来のブタの遺伝子が揃って入っていました。あまりにも凄い交雑なので、当初、誰かが人工的に作り出したウイルスではないかとさえ、囁かれました。

複雑な遺伝子構成をもつ新型のH1N1が、いつ、強毒性のトリインフルエンザH5N1と交雑し、毒性を強めないとも限りません。今年、その種の交雑が起きなくとも、来年には起こるかもしれない。人類に対する一大脅威です」

現在弱毒性だからと言って侮れないウイルスに、私たちはどのように備えるべきか。常識的なことだが、一応列挙してみる。個人としては、マスク着用、石鹸による手洗とうがいの励行、人混みを避け、感染のリスクを減らすことなどは比較的容易に出来る。万が一、発熱してもすぐに病院に行くことはせず、まず、保健所に連絡し、指定病院に行く。その際、地下鉄やバスなどの公的輸送手段の使用は避けるのが他者への配慮である。

他方、受け入れ側の保健所をはじめ、対策を担う地方自治体は、症状を訴える人と一般患者の診療を分けるためのゾーニングを徹底するとともに、医療関係者用のマスク、感染防護服などを早急に備えることだ。また、自衛隊からは医官、看護師の派遣など、心強い支援が得られるはずだ。自衛隊の支援について国全体で具体策を決めておくことが肝要だ。

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トラックバック: 2件

  1. 櫻井よしこさん、岩井奉信の悪質な詭弁に気づいてね

    皆様、ご訪問&応援クリックいつも有難うございます、心より感謝申し上げます。
    日本人政治家の世襲に反対している日本大学教授の岩井奉信氏は、
    週刊文春誌上での櫻井よしこ氏との…

    トラックバック by 日本を守るために — 2009年05月26日  00:22

  2. 「自然災害」と言うフレーズは、最後まで聞きたくない

    新型インフルエンザが「一応安全宣言」した所が有ったけれど、
    これから先ウィルスが変異して強毒性に成って流行してしまった時の
    シュミレーションは出来て居るのか心配になった…

    トラックバック by フレモンのブログ — 2009年05月29日  13:58

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 弱毒性でも侮ってはいけない 」

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